
3月16日にYahoo!ニュースで以下の記事が掲載されました。
旧海軍が使用?100年前の測量機器発見(山形新聞)(Yahoo!ニュース)
実はこの記事が出る約一か月前2月17日に、読売新聞山形版から第一報が出ています。有料会員ではないので記事の内容までは見れないのですが、私は新聞でのこの記事を送っていただいたので読んでいます。
大正の測距儀米沢で発見 北部小旧校舎 保管の経緯不明(読売新聞)
まず、今回の経緯を説明する前に、少し基本的な事をおさらいしておきましょう。
測距儀って何?
答えは読んで字のごとく「距離を測定するためのもの」です。距離を測定するための道具としては、より広く「距離計」とも言いレーザー式の距離計も現代では普及しています。この距離計のうち、光学式で大型のものを測距儀と一般的に呼びます。ちなみに「大型」「小型」という区分の目安は、カメラに搭載されている距離計が「小型」で、それより大きいものが「大型」と思ってください。
日露戦争以降の海軍艦船の場合、測距儀は標準的光学兵器で、幅広く搭載されています。概ね艦橋の最上部付近に搭載されています。例えば大和を例に挙げてみましょう
赤矢印が最も大きな測距儀です。第二次大戦日本海軍の測距儀というのは基本的に日本光学製(現ニコン)です。

今回見つかった測距儀とは?
今回見つかった測距儀は四年式1.5m測距儀です。日本海軍の装備品に詳しい人なら九六式1.5m測距儀というのは目にされたこともあるかもしれませんが、四年式というのは大正時代のもので、かなり古いものです。
知人より問い合わせ
2月17日に山形在住の知人より相談を受けました。クラシックカメラにも詳しい元教員の方なので、大正時代の日本光学製のものを学校に置いておくことへの不安感からの連絡でした。内容は2つ
・この測距儀は価値のあるものなのか?貴重なのか?
・上の読売新聞の記事を読んだのだが良い寄贈先はないか?
という事で、知人が主としてカメラ側、特にニコン側の資料から調査していただき、私も日本海軍側資料から調査してみました。
私の出した推定は以下の通り
- 旧日本海軍が日露戦争時代から使用していたバー&ストラウドの1.5m測距儀のコピーの国内生産品ではないか?
- 東京計器が日本光学に吸収された後の製品
- 九六式及びその戦後型の五四式なら、結構現存しているはずだが、四年式というのは現存品を見たことが無い
- この測距儀は峯風型駆逐艦艦橋トップのものなど駆逐艦用で大量に生産された可能性が高く、九六式に交換になったり動作不良ものが、払い下げられたり、寄贈されたりしたのでは?
- 出来る限り早く大和ミュージアムなど適切に保存をしてくれる機関に連絡を
ニコン75年史や論文を調べていただいた結論はほぼ同じでした、付け加えるならばニコンの75年史では
第1次大戦でイギリスのバー&ストラウドの製品が入ってこなくなったために、東京計器がコピーしたと書いてある
という事でした。
寄贈先として、私の考えつく限りの博物館や資料館をお伝えしました。
バー&ストラウドの1.5m測距儀とは?
先ほどから、何回かバー&ストラウドの名前が出てきています。バー&ストラウドというのはイギリスの光学メーカーです。このメーカーの1.5m測距儀は日露戦争時代から日本海軍では使われていました。戦艦「三笠」を例に挙げてみましょう
赤矢印です

良く分からない?では、この画像はどうでしょう?引用元は三笠記念艦HPの日本海海戦での大活躍にあるこの絵

この絵の中で、一段高い所に横長の棒をのぞき込んでいる人がいますね。この棒が測距儀です。
米沢で発見された測距儀の画像
知人が発見された測距儀を見学に行きましたので、その時に知人が撮影した画像をご紹介します。無断転載厳禁です。
実は手元にある九六式の資料と比べても決定的に違うポイントがあります。私はモデラーであって、軍事技術や光学装置の専門家ではないので「私の知っている九六式とはかなり違う」とだけ申しておきます。
決定的に違うのがここです。

これは接眼部だと思います。どうみても単眼式なんですよね。九六式と戦後の五四式は双眼式だと思います。
手に入りにくくなっているので心苦しいのですが、森恒久さんの「日本の巡洋艦」227ページに九六式のイラストが載っていますので見比べてみてください。またニコンがドイツ技術者を招聘したのは1921年で、この測距儀は1920年製ですから、ドイツの影響をあまり受けていないとも推測できます。
参考URL https://www.nikon.co.jp/corporate/history/chronology/1917/index.htm

















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模型好き。カメラ好き。各模型雑誌で掲載多数。
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コメント
興味深い記事をありがとうございます。趣味で日本光学の歴史を調べているものです。山形新聞の記事では、既にニコンミュージアムの担当者が現物を確認されたとのことで、この測距儀の出自は判明していると思いますが、念のためお知らせいたします。
1957年に発行された「日本光学工業株式会社四十年史」の第5篇「技術」第5章「測距儀」(P.465)の冒頭に以下の記述があります。
「海軍用測距儀の製造は,当社では創立と同時に始めている。最初は,築地の海軍造兵廠から設計図や重要な部品は官給して貰い製作した。これらは5年式9尺(2米半),7年式8米,同10米測距儀など,何れも双眼合致式のもので,外貌は葉巻状であった。また一方当社の今井重吉氏は東京計器会社に在職中から,弐式の測距儀を参考として,単眼合致式の4年式1米半や,特種2米測距儀を設計した。」
貴重な情報をありがとうございます。四年式はやはり単眼式なんですね!
貴殿が記事に書かれているように、ニコン75年史にも記載があり、海軍造兵廠が巡洋戦艦「榛名」に装備するため、イギリスに4.5mと1.5mの測距儀、主砲用Z型照準望遠鏡などを注文していたが、大戦の勃発によって輸入できなくなったため、東京計器に1.5m測距儀の製造を依頼した結果、大正4年6月に単眼合致式の四年式1.5m測距儀を製作し、とりあえず「榛名」の完成に間に合わせて、これが国産初の測距儀となった、とのことです。しかし、測距儀の出来栄えは良好ではなく、手を入れて良好なものに仕上げたのは大正5年6月だった、とのことで、今回の測距儀に「Ⅱ型」の記載があるのは、この改良版ではないかと思われます。